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神経症状の発症機構

色素性乾皮症の発症機構については、前述したように、解明されていますが、XP-A群の大きな症状である神経症状の進行の大小は、紫外線の照射量と、無関係であることは確認されているものの、神経障害の進行メカニズムについては、未だ有力な説がありません。今後の更なる研究により解明されることを期待します。

神経症状について

淑徳大学看護栄養学部看護学科 林雅晴

色素性乾皮症 (XP)では、遺伝子DNAを構成する塩基 (ヌクレオチド)の修復機構の障害により皮膚症状(日光過敏症、皮膚腫瘍)が出現します。XPはA~G群とヌクレオチド除去修復が正常なバリアント群(XPV)の8つに分類され、日本ではA群(XPA)とXPVが多いとされています。A・B・D・G群では神経症状もみられ、日本のXP患者さんの約55%をしめるXPAでの神経障害は進行性です。「末梢神経障害(脳・脊髄から全身に張り巡らされた電線)」と「聴神経障害」から始まり、「知的障害」や「運動障害」など多彩な神経症状が出現し、生涯にわたる療養が必要となります。日本のXPA患者さんの約80%をしめるイントロン3スプライス異常のホモ接合体(両親の遺伝子が異常)患者さんでは、多くが20歳前後で寝たきりになります。一方、イントロン3スプライス異常に別の遺伝子変異が組み合わさったヘテロ接合体患者さんでは、症状の進行がゆっくりで寝たきりになるのも30歳前後です。残念ながら、神経症状は厳重な遮光を行っても年齢とともに進行します。酸化ストレスの関与も論議されていますが、正確な発症機序は明らかになっていません。したがって神経症状に対する根本的な治療法あるいは予防法も確立されていません。
 まず東京医科歯科大学「色素性乾皮症療養の手引き第2版」を一部改編して、ホモ接合体XPA患者さんでの年齢に応じた神経症状の概要をお示します。ヘテロ接合体XPA患者さんやB・D・G群の患者さんでは神経症状の進行には個人差がみられ、総じてホモ接合体患者さんに比べ軽いと言われますが、基本症状はホモ接合体患者さんと共通しますのでどうかご参照ください。代表的症状を解説するとともに、私達の研究成果から考えられるリハビリテーション法もご紹介します。

年齢による神経症状の変化

(1) 胎生期:母体(出血、妊娠中毒症など)、胎児(胎動が弱い)
(2) 周産期:低出生体重・仮死(時にみられる)、黄疸が強い、哺乳の不良
(3) 乳児期(1歳まで):日光浴でのひどい日焼け(日光過敏の発症)、筋緊張の軽度低下、発達の軽度遅れ(歩行開始や発語)
(4) 幼児期(1~6歳):歩行が不安定で転びやすい、言語発達の遅れ、四肢の深部腱反射の低下(診察上の所見、末梢神経障害)
(5) 学童期前半(6~9歳):聴力低下(聴性脳幹反応の異常)、脳委縮(頭部CT・MRI)、足の変形(内反凹足、尖足)、末梢神経伝導速度の異常、不随意運動(振戦:手・足先の細かなふるえ、ミオクローヌス:ピクッとした動き)、低身長
(6) 学童期後半(9~12歳):皮膚の腫瘍、知能障害や聴力低下の進行、発語の減少、補聴器使用、構音(発声)障害の出現、脳波での活動低下(徐波化・低振幅化)、頭部CT・MRIでの脳萎縮の進行
(7) 思春期以降:歩行不能・車椅子使用、四肢の関節拘縮・筋萎縮、顔面・四肢のミオクローヌス(ピクッとした動き) → 寝たきり
知的障害の進行、言語消失、補聴器使用 → 傾眠(日中もウトウト)
喀痰の排出困難、声帯運動障害、無呼吸 → 発作性の呼吸障害 → 気管切開
嚥下障害 → 経管栄養、胃瘻造設
排尿障害 → 尿道カテーテル、定期導尿

運動障害・脳萎縮

頸定(首のすわり)、坐位などの運動発達は正常ですが、乳児期に筋緊張の低下を示すことがあります。歩行開始や発語に軽度の遅れがみられます。幼児期になると、歩行が不安定で転びやすい、言語発達の遅れ、四肢の深部腱反射低下が明らかになります。神経症状を合併したXP患者さんでは、皮膚の上から末梢神経を電気刺激して機能を検査する「末梢神経伝導速度(NCV)」を定期的に行います。学童期前半(6~9歳)から下肢優位、感覚神経優位に異常が出現します1)。同じ頃、頭部CT・MRIにおいても脳萎縮(小頭症)が明らかになります2, 3)。

聴力障害

XPA患者さんでは7歳頃から聴力低下が出現し、13歳頃までにはほぼ全例が難聴になります2)。神経症状を合併したXP患者さんでは、ヘッドフォンで音を聞いた時の脳波を加算平均して聴覚の脳内伝導を波形化する「聴性脳幹反応(ABR)」を定期的に行います。XPA患者さんでは4歳まで反応波(I波~V波)の導出は良好ですが、5歳以上になると異常例が増え、10歳以降は無反応になります。ABR異常は聴力低下に1~2年先行します。ABR正常例では聴覚の脳幹内伝導を反映したI-V波間潜時は正常です。病理でも聴神経は障害されますが、脳幹の伝導路は保たれABRと一致します3, 4)。以上から人工内耳により聴力回復が望める可能性が推定されます。また、一部の患者さんでは聴力障害が進行する前の手話習得も試みられています。

学童期のリハビリテーション

学童期後半(9~12歳)には、知能障害や聴力低下が進行し補聴器使用が必要となり、発語も減少します。脳波での活動も低下し、頭部CT・MRIでの脳萎縮が進行します。運動障害には、末梢神経と小脳(バランス保持に関与)の障害による筋緊張低下と、大脳基底核(全身運動の交通整理に関与)や運動路(錐体路)の障害による筋緊張亢進が混ざり合っています。足>手の変形、振戦(手・足先の細かなふるえ)やミオクローヌス(ピクッとした動き)などがみられます。廣島先生らによれば、XPA患者さんの約80%に治療が必要な足変形がみられ、内反凹足が多いとのことです5)。また、歩行が困難になったXP患者さんで足変形に対する手術治療を行い、歩行可能期間の3~4年の延長がみられたと報告されています。
XPA患者さん脳では運動・学習に関係するドーパミン・アセチルコリン神経が障害されます6)。手・足を組み合わせた左右交互運動が脊髄・脳幹を刺激し、上位の大脳の発達を促すことが動物実験で示されています。XP患者さんにおいても、手・足を組み合わせた左右交互運動(足踏み、三輪車こぎ、クロール)を幼少時に積極的に行うことは神経症状の進行予防に有用です3)。また、お片付けなどの手伝いを6カ月位継続して行い、達成できたら(カレンダー○付けで達成度チェック)ごほうびをあげる(お年玉、誕生日など)ことによりドーパミン神経の活性が高まることが知られています。XP患者さんでも報酬を伴うお手伝いを試みるべきかもしれません。

年長患者さんでのケア

ホモ接合体XPA患者さんは、思春期以降、歩行不能になり移動に車椅子が必要となります。四肢の関節拘縮・筋萎縮(使わないことによる)が進み、顔面・四肢のミオクローヌスも増加します。知的障害も進行し、発語は消失、日中も眠りがちになります。嚥下障害のため口からの食事が困難となり、胃瘻造設による経管栄養が必要となります。神経因性膀胱(排尿をコントロールする神経の異常)による排尿障害も合併し、尿道カテーテルによる定期導尿が必要となります。
年長のXPA患者さんでは、睡眠時無呼吸、声帯麻痺、喉頭ジストニアのため、食事中や夜間に発作性の呼吸障害が出現します3)。数年継続してみられた後、自然に消失することもあります。呼吸障害が重い場合、気管切開が行われます。喉頭気管分離術を受ける患者さんもいます。声帯麻痺は脳幹の障害により生じますが、喉頭ジストニアは声帯を開く筋肉と閉じる筋肉が同時に収縮し吸気時に声帯が閉じる不随意運動です。神経難病の患者さんでは声帯へのボツリヌス毒素注射や手術(甲状軟骨を開き声帯の緊張を弱まる)が行われますが、XP患者さんには負担が大きすぎます。 
瀬川小児神経学クリニックでは少量レボドパ療法(通常は20~30mg/kg/日、少量は0.5~1.0 mg/kg/日)が行われ、自閉症の行動異常やチックの改善に役立っています。ドーパミン神経受容体の過敏性を少量レボドパで緩和し神経症状を改善させると考えられます。私達は少数のXPA患者さんで少量レボドパ療法を試み、喉頭ジストニアによる呼吸障害と手足の不随意運動の改善を認めました6)。ただし治療開始時に他疾患ではみられない筋緊張低下が出現しますので慎重に試みる必要があります。

酸化ストレス

酸化ストレスは、体内に生じたフリーラジカルが遺伝子や脂質を傷害し引き起こす臓器障害のことです。私達はXP患者さんの剖検脳組織や尿での解析を通じて、XP神経変性での酸化ストレスの関与を明らかにしました6)。抗酸化サプリメント(ビタミンC・E、コエンザイムQ10)、抗酸化薬エダラボンが神経症状の予防・治療に有用である可能性が考えられ、さらに研究を進めています。

参考文献
苅田典生.色素性乾皮症における末梢神経障害.医学のあゆみ2009;228:155-6.
宮田理英,大日向純子,神山潤,林雅晴.色素性乾皮症の神経症状.医学のあゆみ2005;214:201-4.
林雅晴.色素性乾皮症(XP)の治療-およびリハビリテーション,在宅ケア.難病と在宅ケア2008;14:58-61.
林雅晴.色素性乾皮症とCockayne症候群の神経病理.医学のあゆみ2005;214:205-8.
廣島和夫,井上悟.色素性乾皮症の運動器症状とその対応―QOL維持をめざして.医学のあゆみ2009;228:147-53.
林雅晴.色素性乾皮症・Cockayne症候群の神経変性機序と治療の試み.医学のあゆみ2009;228:143-6.

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